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松江地方裁判所 昭和57年(ワ)76号 判決

主文

一  被告は原告に対し金四〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年七月二三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め請求原因を次のように述べた。

「一、松江市西川津町字川部田一五一五番雑種地一八九七平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)は元は原告の父訴外久保田〓(以下「〓」という。)の所有であつたが〓は昭和五三年六月一二日に公正証書遺言をして本件土地を含む全財産を原告へ包括遺贈し昭和五七年二月二八日に死亡したから、右死亡により本件土地は原告の所有となつた。

二、本件土地には松江地方法務局昭和五四年一一月一〇日受付の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。原因同年八月二〇日設定、極度額四〇〇〇万円、債務者訴外白鳥製綿有限会社、根抵当権者被告)設定登記が経由されており、右有限会社(以下「訴外会社」という。)被告、〓間には右にそう内容の同年八月二〇日付の〓の記名押印のある根抵当権設定契約書(乙第四号証)、同年一一月九日付の〓の記名押印のある本件根抵当権設定登記手続についての委任状(甲第一号証の三)、〓の右各押印に関する同年一〇月二五日付の印鑑登録証明書(甲第一号証の四)がある。

三、本件根抵当権設定契約が〓の意思に基いてなされたとの点については、原告は否認するものである。即ち本件根抵当権設定契約は〓の二女福田幸子(以下「幸子」という。)が同女の夫であり訴外会社の代表取締役である訴外福田忠雄(以下「忠雄」という。)の命を受けて昭和五四年八月初旬から中旬頃〓の実印及び印鑑登録証を盗み出し印鑑登録証明書の交付を受けて忠雄へ手交し、忠雄が右実印及び印鑑登録証明書を使用して本件根抵当権設定契約書を作りあげ同契約書を原因証書として本件根抵当権設定登記手続をするなどしたものであつて、〓に無断でなされたものであり無効のものである。

四、被告は訴外会社に対する債権に基き本件根抵当権の実行のため昭和五六年一〇月一一日当庁に対し本件土地の競売申立てをなしその後競落があり昭和五七年三月二六日競買代金の支払いがあつて同年六月一七日被告は当庁から配当金四〇〇〇万円の交付を受けた。

五、右のとおり被告は無効な本件根抵当権の実行により四〇〇〇万円を取得し原告をして本件土地を喪失させ少くとも同額の損害を原告に負わせたものであるから原告は被告に対して不当利得として四〇〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五七年七月二三日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め答弁を次のように述べた。

「一、請求原因一のうち本件土地が元は〓の所有であり同人が原告主張の日に死亡したことは認めるがその余の事実は不知。同二の事実は認める。同三のうち幸子が〓の二女であり同女の夫忠雄が訴外会社の代表取締役であることは認めるが本件根抵当権設定契約は〓の意思に基いてなされた有効なものである。同四の事実は認める。」

被告は抗弁を次のように述べた。

「一、本件根抵当権設定契約は〓の意思に基いてなされたものである。即ち被告は昭和五四年八月中旬頃病床の〓を見舞い同人に対し本件根抵当権設定について了解を求めたところ同人は同人の長男である原告と娘婿である忠雄とに委せてある旨述べたのでその翌日頃被告は忠雄と共に養魚場に原告を訪問し右につき了解を求めたところ原告は了解したものであり、その後忠雄が〓の印鑑登録証明書、本件根抵当権設定契約書、右委任状を被告に交付し本件根抵当権設定契約書が作成完了し右登記を経由したものである。

二、仮に本件根抵当権設定契約が〓に無断でなされたものであるとしても、〓は忠雄の借入する債務につき信用保証を行うに際して忠雄に包括的な代理権を与えており本件根抵当権設定契約も右代理権のうちに属していたものである。」

原告訴訟代理人は抗弁に対して次のように述べた。

「抗弁一の事実中昭和五四年八月中旬頃被告が忠雄と共に養魚場に原告を訪問したこと、その後忠雄が〓の印鑑登録証明書、本件根抵当権設定契約書、右委任状を被告に交付し本件根抵当権設定契約書が作成完了の形となり右登記を経由したことは認めるが、その余の事実は否認する。抗弁二(仮定抗弁)の事実は否認する。」

証拠として原告訴訟代理人は甲第一号証の一ないし四、第二号証を提出し証人福田忠雄(一、二回)、同福田幸子、原告本人(一、二回)の各尋問を求め、被告は乙第一、二号証、第四ないし第一七号証(第三号証は欠番)を提出し証人加納睦敏、被告本人の各尋問を求め甲号証の成立はすべて認めると述べた。原告訴訟代理人は乙第一、二号証第五ないし第一三号証、第一五ないし第一七号証の成立はいずれも認める、乙第四号証のうち〓作成名義部分の成立は否認する、但し〓名下の印影が〓の印章によることは認めるが冒用されたものである、その余の部分の成立は不知、乙第一四号証のうち訴外会社代表取締役忠雄作成名義部分の成立は認め、原告作成名義部分の成立は否認すると述べた。

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